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地方自治体の育成と教育政策

三つ目は、地方自治体の育成に本当に真剣に取り組んでいることです。上から下ではなくて、必ず下から上へ。それが政治、行政の正しい形だということを叩き込む国です。中央集権型をひっくり返して三十数年間ですから、そろそろ定着して来たのかなと思う時期に入っています。

何が違うのかということの四番目。これは行政、政策の内容ですが、同じ政策でも目の付け所が違います。

例えば、教育政策です。ブータンの教育制度の要は、教師の育成です。教育とは何かということに対しての考え方は、知識を与えるものではない。教師が、生徒の人間としてのロールモデルとなるべきである。教師とは人格者でなければいけない。教師はブータンの将来をなす人間をつくるモデルなのだから、人格者を育てて、そういう人たちに教壇に立ってもらうという考え方から始まるわけです。

数学の教師が教えるマニュアルのようなものがあるのですが、その第一ページにこう書いてあります。「君は数学を教えるために教壇に立つのではない。ブータンの将来を担う人間をつくるために教壇に立つのだ。それを忘れるな」と。

教育のことでもう一つ、目の付け所が違うところがあります。ブータンの教育用語が英語であることです。近代教育を受けたブータン人は英語がぺらぺらです。なぜその選択を三十数年前にしたかというと、ブータンは人口が少なくても多民族の国だからです。主な言語を数えただけでも二十から二十五くらいの違った言葉がある国です。注意をしないと、言語の違いが国をばらばらにしてしまう要素にもなるわけです。

未来をつくる子どもたちを、同じ教室で同じ言葉で勉強させるときに、誰の言葉を使ったらいいのか。その政治決断を現国王がなされた時に、それは英語でなければいけないとされたのです。ブータンで使われている言葉以外の言葉でなければ、理想的にならない。また、国際的な感覚を身につけるにも、英語がいい。国語、それから小民族の言葉もちゃんと学校で教えますが、教育用語は英語です。それがもう何十年間もなされてきました。余談ですが、国際会議に出ると羨ましいのです。ブータンの発言力は、とても大きいものがあるからです。英語が上手だということが、国家にとって大きなプラスになっています。

もう一つ、行政政策の内容で違ったところは、思いやりのある政策、行政と言ったらいいかと思います。日本と比較すると、例えばハンセン病のことです。日本のハンセン病患者に対する政府の対応は、非常に恥ずかしく、悲しい歴史だった。その悲しい歴史は、いまだにいろいろな形で国民を苦しめています。ブータンの場合は、ハンセン病は最近まであったわけで、その対応の仕方は見事で、立派でした。

まず、隔離はいけないとされました。幸せを追求する時に、家族の和、地域社会の和が大切だから、その和を使って、患者が普通の生活をしながら治療を受ける状態をまず作らなければいけない。その決断から始まりました。患者がいる村なら、どんなに不便なところでも出かけていって、ハンセン病とはこういうものだという説明をする。そして、その村の理解を得て、患者さんが普通の生活をしながら治療を受けられる状態を作って、薬を届ける。そういう対策をしてハンセン病を消滅させた国です。

わずかな例ですが、いろいろな面で他の国とは違っています。ふと見ただけでは見えないのですけれども、少し掘り下げていくと、とにかく姿勢が違う。目の付け所が違う。内容が違うことに気がつきます。その源は何なのかを考えると、国民総幸福量という考え方が、根本的に浸透しているということに気づきます。

協力:社団法人 学士会
本稿は平成18年10月10日夕食会(学士会が会員向けに毎月開催している)における講演の要旨です。

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